生没年不詳。

 

額田王や大伴坂上郎女と並ぶ、「万葉集」の代表的女流歌人。

大伴家持に贈った、多くの相聞歌があり、

一時は彼と恋愛関係にあったかと思われる。

しかし、彼女が家持に贈った多くの相聞歌に対して、

家持の返歌は二首のみであり、二人の関係はどちらかというと、

笠女郎の方が積極的なものだったようである。

また、「万葉集」に掲載されている、笠女郎の歌は、

必ずしも正確な贈られた順に並べられてはいないのではと

考えられているようです。

 

 

 

「万葉集」巻第三 三九五 託馬野に生ふる紫草に染めいまだ

着ずして色に出でにけり

 

 

 

 これは、まだ大伴家持との恋が始まった頃の歌だと

考えられているようです。

 

 

 意味 託真野に生えるという紫草で衣を染めるように、

まだ着ない内から、早くも人目についてしまいましたよ。

 

 

 

 三九六 陸奥の真野の草原遠けども面影にして見ゆといふものを

 

 

 意味 陸奥の真野の草原は、遠くはあっても面影の中に見えると言いますものを

 

 

 

 

三九七 奥山の岩本菅を根深めて結びしこころ忘れかねつも

 

 

 

意味 山奥の岩本の菅の、その根も深いように深く約束した心を

忘れる事ができません。

 

 

 

 

「万葉集」巻第四 五八七 わが形見見つつ思はせあらたまの年の

緒長くわれも思はむ

 

   

意味 私の形見を見ながら私の事を偲んでください。

私もいつまでも長くあなたの事を思い出しましょう。

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   

   

 

   

  

   

五八八 白鳥の飛羽山松の待ちつつそわが恋ひわたるこの月ごろを

 

 

 意味  白鳥の飛んでくるその

飛羽山の松のように、お待ちしながら恋い焦がれております。

この月々を。

 

 

 

五八九 衣手を打廻の里にあるわれを知らにそ人は待てど来ずける

 

 

 

意味 衣の袖を打つ打廻の里にいる私の心を知らないで、

あなたは、待っていても来ませんでしたね。

 

 

 

 

五九〇 荒玉の年の経ぬれば今しはとゆめよわが背子わが名告らすな

 

 

 

意味  年が経ったから、もう今はよかろうと、決してわが愛するあなた、

私の名を知らせてはいけません。

 

 

 

 

五九一 わが思ひを人に知るれや玉くしげ開きあけつと夢にし見ゆる

 

 

 

意味 私の思っています事が、人に知られてしまったのでしょうか。

大切にしています箱を開いてあけたという夢を見ましたので

気がかりです。

 

 

 

五九二 闇の夜に鳴くなる鶴の外のみに聞きつつかあらむ逢ふとは

 

 

 

意味 姿も見えず闇夜に鳴くらしい鶴のように、

よそながらあなたの事を聞き続けているのでしょうか。

会う事もなくて。

 

 

 

五九三 君に恋ひ甚みも術なみ平山の小松が下に立ち嘆くかも

 

 

 

意味 あなたが恋しく、ただなすすべもなく、奈良山の小松の下に

出で立っては嘆く事です。

 

 

 

 

 

 

 

五九四   わが屋戸の夕影草の白露の消ぬがにもとな思ほゆるかも

 

 

意味 夕暮れに私の家の庭の草に宿る白露がすぐ消えるように、

私の命も今にも消えそうに思われますよ。

 

 

五九六 八百日ゆく浜のまさごもわが恋にあにまさらじか奥つ島守

 

 

 

意味 ゆくのに八百日もかかる広い浜にある細かい砂の数も、

決して私の恋にまさっていないでしょうか、沖の島守よ。